人体には‘常在菌’と称される一群の微生物が皮膚、口腔、腸等にそれぞれに独特な集団(叢またはフローラ)を形成して生息している。これら常在菌叢の形成は出生と同時に始まり、一人の個体に生息する常在菌は約1,000種類、その数はヒト細胞数よりも一桁多い数百兆個と見積もられている。近年における世界的な研究の進展から、腸内細菌叢が糖尿病、がん、自閉症などの疾患と広範囲にかつ密接に関係すること、ならびに便微生物移植で示されたように腸内細菌叢が強力かつ多彩な生理活性をもつことが明らかになってきた。本講義では、常在菌の実態ならびにその想像をはるかに越えた常在菌の能力と一体となった‘超生命体’としてのヒトについて解説する。